土曜日, 6月 11

ねじまき少女 下

ニュータイプ立ち読みの代償として、S1書店にて購入。明日は待機シフトなので、じっくり読みたいところ。

メインヒロインは被造物萌えどころか、ひどいヤンデレだった…性的虐待をきっかけにイヤボーンというのもレトロな話だけど、そうやって女王陛下の摂政やら取り巻きを皆殺しにしたことが、大規模な内戦を引き起こす原因になってしまったという、じつに迷惑な娘である(笑)。しかも、主要キャラほぼ全員が生死不明という結末を迎えた中で、ちゃっかり生き残ってるし。

内戦の描写については、「バチガルピにも、こういう(普通のエンタメっぽい)ものが書けたんだ」という点で新鮮ではあるな…武装したメゴドントが暴徒の群れを蹂躙するシーンは、劇場版ロード・オブ・ザ・リングを彷彿とさせるものがあったりね。
しかし「とりあえず長編なんだから、ドンパチやって盛り上げ&尺を稼がなきゃダメだよね」みたいな、ハリウッド映画のような安易な発想に基づいているんじゃないかという気も。
やはり長編では、こういう付加要素は避けて通れないのかねぇ…短編では(その短さゆえに)ダイレクトに伝わってきた世界観やテーマが、こういう余計なモノが加わったせいで、焦点がボヤけてしまい、デメリットの方が多い印象なんだけど(←その点では、独特の表現を用いたり大量のネタ──ガジェット描写──を濃密に詰め込むことで、希薄化の回避に成功したニューロマンサーは、やっぱり凄かったと言うべきか)。
そんなデメリット(←さらに作者サイドとしては、“書くのが大変”という極めて分かりやすいデメリットもあるだろう)があっても長編を書こうとするのは、やはり“長編じゃないと世間に認めてもらえない”とか“本を出してもらえない”みたいな、現実的な理由があるのかね? 業界の事情は知らないけど。

日本に関する記述は、第2次大戦での同盟関係はもちろん、王室外交についても言及するなど、基本的なところはしっかり押さえている感じ。
ねじまきが日本に広く普及しているのは、少子化で不足した労働力を補うため…という設定も、近年の情勢を的確に反映したアイデアと評価できる。
ただしミシモト社が状況を的確に把握し、迅速に対応した点については違和感も…日本人の優柔不断さや、曖昧に徹する無責任な姿勢については(広く世界中に知られるようになったキッカケは3.11かも知れないが、それ以前から)エスニックジョークのネタなどにもなっているわけだし。
で、そのミシモト社が事態への対処と、謝罪の徴として貸し出したのが、新たなねじまき娘・ヒロコ…おお、ねじまき娘VSねじまき娘の燃える展開! と思いきや、ターゲットを探し出す前にクーデター騒ぎに巻き込まれて、あっさりオーバーヒートして動作不能状態に…何しに出てきたんだ、お前は!?(笑)

「“自然のままの生物”や“自然な進化”なんていうものは、非現実的な幻想に過ぎない」というギボンズの見解は、原作版ナウシカを思い出させた。まぁ現実を直視すれば、そういう結論になるよなぁウンウン…と納得しかけていたのに、最後の最後にエミコに語った言葉のせいで、すべて台無し。
“ゲーム”を面白くするため…という理由だけでタイ王国側に寝返ったのは、単に“性格がイカれているから”で納得するとしても、ギボンズの能力がチート過ぎる点は問題だろう。テクノロジー自体の暴走や環境の激変(←資源の枯渇を含む)によって、もはや人間のテクノロジーでは対処不能になってしまった絶望的な未来世界を描くのが、バチガルピ作品の魅力だろうに、その前提をアッサリ覆してしまっては元も子もないぞ。

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